カズオ・イシグロ『クララとお日さま』

ここのところ気分が落ち込んでいて、毎日スマホゲームばかりして過ごしていた。しかし不思議なものでスマホのゲームというのはたいてい、ある日急につまらなくなってやる意味が消失する。そして自然と人間を別のことに向かわせるのである。

 

スマホの次に手っ取り早く時間を埋められるものといえば、やはり読書だろう。1か月近く前に買って積まれていたカズオ・イシグロ『クララとお日さま』をようやく読み終えることができた。AF(人口親友)と呼ばれる、少女の姿をした人型AI・クララと、彼女の持ち主となった病弱な少女・ジョジーとの交流を描いた作品。タイトルやあらすじからして心温まる物語を想像しがちだが、そこはカズオ・イシグロなのでそれだけでは終わらない。人間の子供に劣らぬ観察力と知能を持った少女クララの視点から、人間世界の不条理や欺瞞が容赦なく描かれる。

 

自分はこの手の、人間とAIの交流を主とした物語を読むといつもAI側に極端に感情移入してしまう。今回もそうであった。そのような読み方をしてしまうと、読後心が温まることは決してない。むしろ自分がクララと同じように「人間の心を持っているように見えて、実際は物でしかない」ことを突き付けられたかのような哀しみが残る。実際、「人間とAIの境界はどこであるか」等の、明確に〈哲学的な〉テーマも途中に出てくる。しかしこの物語の中では、その境界は比較的わかりやすくひかれているように自分は感じた。

 

久しぶりに読書会をやりたい気分にさせてくれる小説だった。